「屍人荘の殺人」ネタバレなし感想|邪道に見せかけて王道なミステリー

小説

デビュー作で『このミステリーがすごい!』『週刊文春』『2018本格ミステリ・ベスト10』の3冠を獲得した話題作。
タイトルの「屍」の字に釣られて買ってみました。

本格ミステリでそんなものぶちこんでいいのか?というものが出てくるんですが、それによってうまくクローズドサークル(脱出不可能な無人島や雪山のような設定)が構築されています。

僕はホラーかSF小説ばかり読んでいて本格ミステリはあまり好みではないのですが、この小説は一気に最後まで読み進められました。
謎解きはそこまで興味ないけどホラーは好きだ、って人にもぜひ読んでみてもらいたいです。

極力ネタバレはしないように感想を書きますね。

あらすじ

たった一時間半で世界は一変した。
全員が死ぬか生きるかの極限状況下で起きる密室殺人。
史上稀に見る激戦の選考を圧倒的評価で制した、第27回鮎川哲也賞受賞作。

神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。合宿一日目の夜、映研のメンバーたちと肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。緊張と混乱の一夜が明け――。部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった……!! 究極の絶望の淵で、葉村は、明智は、そして比留子は、生き残り謎を解き明かせるか?! 奇想と本格ミステリが見事に融合する選考委員大絶賛の第27回鮎川哲也賞受賞作!

「屍人荘の殺人」を読んで

最初の数ページはペンションの見取り図と登場人物の一覧。
主人公はミステリ愛好会の大学生で、夏休みにペンションで合宿に行くというミステリーあるあるな王道設定。

文章は結構読みやすくいです。
ラノベしか読まない人でも最後まで読めると思います。

途中で登場人物の覚え方が出てきたのはかなり親切かなと。
管理人さんだから管野、親の七光りだから七宮といったように。

ただ、筆者の意図が前面に押し出されたネーミングなので、賛否がわかれるかもしれませんね。
人の名前を覚えるのが苦手な僕はそういうの好きです。

嵐でもきて土砂崩れとかで外部と孤立するのかと思っていたら、予想外なものが登場しました。

ネタバレになってしますので何が登場したのかは書きません。
自分で読んで確かめてみてください。

その予想外の○○○によって、ペンションは一気にクローズドサークルになってしまいました。
確かにたった一時間半で世界は一変してしまいますね。

そして○○○をうまく利用した密室殺人のトリックはかなりよくできている(ミステリはあまり読まない初心者の感想だが)。
作品によって設定が異なる○○○についても、それに詳しいマニア的なキャラを用意することで作品内での定義を読者に伝えている。

本格ミステリにはイレギュラーなものを出しながら、それを利用してきちんと謎を作っている。
一見邪道に見せかけてやはり王道といったところでしょうか。

しいていうなら、犯人の動機が弱いかなという気はしました。
全員が死ぬか生きるかの極限状況下が本当に極限状況すぎて、人殺ししてる場合じゃないっていう。

それと、主人公に共感しづらい。
終盤で主人公は過去のトラウマからある嘘をつくんですが、その行動はどうなんだと思ってしまいました。

個人的には10点満点中8点ですね。
レビューやネタバレをググったりせずに、何も知らない状態で読んでみてほしいです。

ただし、「ノックスの十戒を守ってないだろ」とか気にしてしまう本格ミステリマニアの方は図書館で借りて読むといいと思います。

室井

もし続編が出たら僕は間違いなく買います。
それぐらい好みの作品でした。